<株式会社HANA 裵 正烈(ペ・ジョンリョル)社長>

「韓国と韓国語に関する出版・制作なら!」 株式会社HANA代表取締役の裵 正烈(ペ・ジョンリョル)社長の名刺にはこのようなキャッチコピーが入っている。もともと英語の教師をされていた、語学のプロフェッショナルでもある裵社長に、韓国と韓国語の専門出版社としての意気込みを聞いた。

裵 正烈(ペ・ジョンリョル)
1965年東京生まれの在日コリアン。高校の英語教師から出版業界にキャリアチェンジし、留学情報誌や英語テスト対策書の編集を経て、2002年に語学雑誌『韓国語ジャーナル』を創刊。約3年編集長を務めた後に独立し、株式会社HANAを設立。編集プロダクション業務をこなしながら出版を始め、現在に至る。
http://www.hanapress.jp/

──HANAという会社を設立するまでの経緯と、設立したきっかけをお教えください。
高校で英語の教師をしたあとで大学院に行くことになり、そのお金を貯めるために「アルク」という英語の語学書を発行している出版社に就職しました。30歳過ぎたころでした。最初は英語の語学書をつくっていましたが、自分がずっと使ってきた"韓国語"をキャリアに活かせると思い、韓国語の本をつくることにしました。サッカーのワールドカップが日韓共催で行われることが決まったころで、社内での後押しもあり「韓国語ジャーナル」の企画を会議に出しましたが、最終的な企画会議でなかなかGOサインが出ず、結局「1号だけつくって、赤字が出たら終了」という条件で刊行できることになりました。

自分ひとりの編集部でしたが、赤字を出せないということで、社外のスタッフも極力切り詰めてたいへんな思いをして1冊つくりました。ワールドカップが開幕したのが2002年の5月31日で、「韓国語ジャーナル」が翌日6月1日の土曜日に発売しました。吉祥寺に当時弘栄堂書店という書店があり、店頭でワゴンセールの機会をいただきました。他部署の人を応援として何人か連れていき、景品を用意してくじ引きすることになりました。1日中声を枯らして売ったのですが、結局10数冊くらいしか売れませんでしたね。そのときは「この企画ポシャったな」(笑)って思い、とてもがっくりしてその日は帰りました。

ところが、週が明けて月曜日に会社に行ったら、本屋さんからの注文の電話がひっきりなしに来ていて、ムックでしたがその週のうちに増刷が決まりました。創刊号は結局7刷まで増刷しましたね。このとき、韓国語の本を専門でやろうと決めました。ぼくがもとももともっていた取り柄が思いがけずその後の仕事につながったんです。

「韓国語ジャーナル」は編集長として3年ぐらい担当し、最後は会社をやめて社外編集長として制作していました。当時、韓国語の本をきちんとつくって量産できる会社はあまり多くはありませんでしたので、そこにチャンスがあると思い、編集プロダクションとして独立しました。

──そこから出版社としてやっていこうと思ったのは?
最初からいつかは出版社としてやっていくつもりでした。とはいえ資金はないので、まずは「来た仕事は断らない」という方針で編集プロダクションとしての仕事をしながら、発行点数を少しずつ増やしていくことにしました。

──インプレスコミュニケーションズと提携したきっかけは?
それまでお取引のあった出版社から取引条件の変更を求められたのがきっかけでした。ちょうどそのときに東日本大震災が発生し、スタッフが減ってしまって、1年以上会社として先の見えない時期が続きました。そのような状況でも本は出さなければならないので、新たな発売元を探して、本を出しましたがうまくいきませんでした。知人を通じてインプレスコミュニケーションズさんを紹介していただいたのは、ちょうどそのようなタイミングでした。

──渡りに船、というタイミングだったんですね。
はい。連絡するとすぐに副社長さんが弊社にいらっしゃいまして、一瞬でお取引することが決まりました。2012年の7月のことです。そしてそのときにつくっていた『あいうえおで引いてすぐ!使える韓国語用言集』と『趙善玉の誰でも作れる韓国トック』を、インプレスコミュニケーションズさん経由で発売することになりました。

──そのときの決め手は何だったんでしょうか。
先述の出版社では、自分のところの出版物を出す"おまけ"で他社の本を出すイメージでした。営業もしてくれていたので弊社としては本の制作に専念できてよかったのですが、"提携会社としての"弊社からの要望がなかなか反映されなかったりとか、自社の本として認知されないという結果になってしまうこともありました。

インプレスコミュニケーションズさんはおまけではなく、業務としてこのサービスを行っているので、報告もきちんと出すというお話しでしたし、「これはいままでの会社とは全然違うな」と思ったのが決め手ですね。実際お付き合いを初めてみてからも、何よりもそのような点が行き届いていることが感じられていいですね。

──インプレスコミュニケーションズのことは以前からご存じだったんですか?
はい。前社の時の同僚がインプレスグループに入っていたこともあり、どのような会社かは聞いていました。また『新文化』の記事で、クロスメディア・パブリッシングさんとの提携のこととかを読んでいました。しかし、そのときはインプレスグループさんってITのイメージが強く、自分たちのつくっているものとは畑違いで、自分には関係ないことと思っていました。今にして思えば、自分から戸をたたいてなかったんですね(笑)。

──インプレスコミュニケーションズと提携してどう感じられましたか?
取引上の有利な条件など、インプレスグループがもっている資産を還元してくれているというのをすごく感じます。あとは、「こうやってほしい」という、結構無理な要求もいっぱいしたのですが(笑)、ちゃんと向き合って聞いていただき、ちゃんと対応していただきました。それらの要求の多くは解決していただいたのはすばらしいと思いますね。

また、配本リストづくりなどは弊社にまったくノウハウがなかったので、どうやればいいのかもわからない状態でしたが、教えていただいて結果として営業の勉強もさせてもらっています。また販売データなどのインプレスグループが長年蓄積してきたデータを一緒に使わせていただいたりなど、小さな会社が逆立ちしてもできないようなこともやっていただいています。

──インプレスグループの印象は?
小回りのきく会社だな、と思いましたね。反応や対応も速いです。「ちょっと上に聞いてみます」などと言われて引き延ばされるということもなく、すぐに決めてすぐに実行する。そういう社風なのかなと思いました。弊社のような小さい会社が営業や販売をやっていく上で困っていることなどをすぐに相談できますし、その垣根はあんまりないですね。

──本をつくる時に心がけていることはありますか?
語学の本は「まちがいがない」ということですね。正しいことを書く。いろいろな人の目を通してチェックし、まちがいのないものをつくることを基本的な姿勢としています。自分たちの本を元に多くの読者が言葉を学んだり使ったりするわけですから大切なことです。

あとは、ものをつくる仕事なので、言われたことをただこなすだけのつくり方ではなくて、どのように見せるべきか、どのようなことを伝えるべきかを、きちんと意思をもってつくるということを、自分自身が本を作るときだけでなく、社内のスタッフにも言っています。本という造形物の内容や形、図版もテキストも含めてです。その編集者が何らかの意思をもってつくっているかどうか、何を考えてつくっているのかは、ゲラみたらすぐにわかりますよね。そういうのが感じられない本も世の中にはあるんですよ。

──語学書ならではの心がけというのはありますか?
語学の習得にはいろいろな方法があるのですが、活きた言葉を扱うという要素もあります。昔は座学として語学を学ぶ人が多かったですが、いまは語学を習得してコミュニケーションに利用するという目的の人が多いため、その国の人が見て納得、違和感を感じない表現や言い回しかどうかは重要です。

どんなに韓国語や英語が上手なひとでも、ネイティブスピーカーでない人には語学の本は完成させられません。絶対にネイティブスピーカーの助けがないと本はできないんですよ。偉くて立派な、何十年も研究されているような語学の先生ほど、ネイティブの人が「こういう言い方はしない」「これはこうじゃないか」という赤字をいれたら、ご本人が「なぜ?」と思っても、必ず立ち止まって赤字の内容を検討します。これには最初は驚きました。先生方は、その言語の環境の中で育ってきた人間でないから、自分の判断は絶対的ではないと思われるんです。ですから、弊社は必ずネイティブスピーカーの協力のもとに本をつくります。

──社長の目線からおすすめの1冊を。
K-POPで韓国語!」ですね。語学の学習に歌を取り入れるのはとても有効で、多くの語学習得者が用いている方法です。音に慣れる、覚えやすい、なじみやすいなどの理由によるものです。K-POPは日本の若い人にも浸透している身近な素材です。

この本はエンターテインメントの会社が出している「K-POPで韓国語!」ではなくて、語学学習書の出版社が出している「K-POPで韓国語!」なので、学べる内容がきちんとしていますし、ひとつの曲の中で実に多くのことが学べます。この1冊だけで韓国語の中級の文法の多くが学べます。自分で好きな曲の歌詞を翻訳したり使われている文法や語彙を理解する際に助けとなる内容を盛り込んだほか、韓国語では難しい辞書の引き方の説明などの付録も充実させています。また、歌詞にふりがなを振っているので、文字がまったく読めないという方でもカラオケで歌うときの助けになるかと思います(笑)。

──社長としてあるいはいち編集者として今後どのようにやっていきたいですか?
提携して1年ほどになりますが、自社の本をコンスタントに出せる体制にはありませんでした。これからは本腰を入れて自社の本を出していきたい。いまがスタートラインだと思ってつくったのが7月12日に発売の新刊『話してみよう釜山語(プサンマル)』になります。

そして将来的には、"韓国語のHANA"と誰からも呼ばれるようになりたいですね。また、そういう立ち位置の会社にできることとして、日本と韓国の出版業界が交流するうえでの橋渡しをやりたい。また語学だけでなく韓国の文化や韓国というテーマの出版社としてもやっていきたいし、韓国語だけでなくほかの言語の本もつくりたいですね。

──他の言語ですか?
もともと韓国語だけでなく英語の本もつくっていましたが、中国語、ポルトガル語とか、それ以外の諸外国語の本もつくりたいです。多くの語学専門の出版社さんは、ひとつの言語の企画で成功すると、その企画を他の言語のバージョンでも出します。おおよそ語学学習の方法論はどの言語もほぼ同じなのでそれが可能なのです。

取材日:2013年7月1日
取材・文・撮影=インプレスコミュニケーションズ・デジタル事業本部

裵社長の一冊

韓国語ジャーナル」ですね。当時出たときの反応はすごかったですね。この本の付録のCDにはラジオ番組形式の音声が入っているので、教科書的に読み上げた音声ではなくて、実際の自然な会話の音声で聞ける素材が入っているのが特徴です。ラジオと違うのは対訳や注釈があるということです。英語などの語学雑誌も出ていますが、このような形式をとっているのはあまり多くはありませんね。

この本を出したのが2002年で、NHKのBS放送で「冬のソナタ」の放送が開始されたのが2003年、NHK総合テレビで放送されたのがその翌年です。よく「うまく韓流ブームに乗った」と言われるのですが、本の購入者はがきに書かれていた購入動機をみたら、趣味で勉強している人ではなくて、実際に韓国語で話す相手がいる人が多かったんです。驚きましたね。表面的には韓流として大きな流れはあったのですが、それとは違う「人対人」の根強い流れがあるんです。国が近いですから。その流れは多少のことでは変わらないでしょう。