<有限会社マイルスタッフ 山下社長>

全国に届ける本を静岡発でつくっている有限会社マイルスタッフの代表取締役社長の山下さんは、プロフィール欄に載せきれないほどの多彩な経歴をもつ編集者。その山下さんに、本をつくる楽しさと、インプレスグループとの不思議な"縁"について、静岡の同社オフィスで聞いた。

マイルスタッフ新刊紹介

山下有子(やました・ゆうこ)
有限会社マイルスタッフ代表取締役。1971年生まれ。石川県金沢市出身。渡仏・渡蘭後、フリーライターを経て、28歳の時に会社を設立。1児の母になった今も変わらず現場派。取材・執筆・撮影・デザインもこなす編集者。主に好きなジャンルは旅と衣食住の生活一般。特技はよく食べ、よく眠ること。毎日9時間ほど寝る。趣味は音楽。子どもの誕生を機に絵本の面白さにハマっている。
http://milestaff.co.jp/

──マイルスタッフを設立するまでの経緯とつくられたきっかけをお教えください。  
昔から本が好きな子どもで、雑誌をつくることへのあこがれもあり、広告や雑誌などのビジュアルデザインを学んでいました。インテリアデザインの会社に勤めていたこともあります。その後、東京に住んだり海外に住んだりしている中で、小説やコラムを書いては公募されている文芸賞に出していたのですが、ライター業をやらないかというお話になり、紀行文を書いたり、取材をして原稿を書いたりと、仕事の幅が広がってきました。

最初はフリーランスでライターをやっていましたが、仕事をしていく中で会社組織のほうが仕事を受注しやすいということがあり、1日で書類を書いて提出して(笑)、マイルスタッフを設立しました。28歳の時です。

──その時点から編集プロダクションの業務だったのですか?  
いいえ、創業当初は編集プロダクションの業務とイベント業の2本柱でした。司会業やモデルさんの手配などをやっていました。編集プロダクションの業務の中でも、モデルさんを使うことが多いので一石二鳥でした。

──編集プロダクションの業務一本にしぼったのはどうしてでしょうか?  
イベント業は2、3年くらいやっていましたが、ノウハウがたまってステップアップしていく編集プロダクションの業務と異なり、イベント業はつねに振り出しに戻るような仕事で、あまり成長を感じられるものではありませんでした。また、おかげさまでどちらの業務も仕事が増えてきて私ひとりでは手一杯になったこともあり、編集プロダクション一本でやっていくことにしたんです。

──出版社をやろうと思った理由は?
うーん、なりゆきです(笑)。ある仕事で全国に静岡のアピールをするために、静岡県内だけでなく全国の書店さんで販売したいという話になりました。出版社になればできると思ったんですよね。発行元として弊社が制作した本を、発売元として全国の書店で発売してくれる、という方法があることを知ったんです。

──インプレスグループと提携したきっかけは何だったのでしょうか?
発売元になってくれる会社をインターネットで検索したところ、"クロスメディア・パブリッシング"さんとか"インプレスコミュニケーションズ"さんとかのお名前が出てきました。そのときはインプレスグループの名前も知りませんでしたが、なんとなくピンと来たので、おもいつきで電話しました。その時はいきなり電話をかけたにもかかわらず、ていねいにご説明いただきました。

この話を副社長の佐野にしたところ、彼は一時期プロのドラマーをやっていたため、(インプレスグループの)リットーミュージックさんで本を何冊か出させてもらっていて、「リズム&ドラム・マガジン」でも記事を書かせてもらっていたという話を聞き、"これも何かのご縁なんだな"と思いました。

──奇遇ですね。
その時のお話は結果的には流れてしまったのですが、しばらくして中島さん(註:株式会社インプレスコミュニケーションズ 副社長)からお電話をいただきました。弊社におこしいただいて話をしているうちに、意気投合してやってみようということで、ものの15分ほどで提携することになりました。中島さんにはピンときたんです(笑)。

──提携してよかったことはありますか?
インプレスコミュニケーションズさんには教えられることが多いです。弊社は本をつくることに関してはプロと言えますが、販売することに関しては知らないことも多く、素人でした。

「momo」の1冊目は、取次さんとの交渉や販売に関わる作業まで、インプレスコミュニケーションズさん経由ではなく自社で行いました。ところが、取次の世界のことや流通の仕組みなど、印刷した本を書店で販売できるようになるまでのフローを、ほとんど何も知らなかったので、非常に苦労しました。印刷した部数は全部配本できると思っていましたし、書店ごとにこちらが決めた部数を置いていただけると思ってましたが、実際は思ったほど置いていただけませんでした。自分たちの本は読者へつながっていると思っていたのに、書店に置かれなければ届きません。"売ることって大切なんだな"って思いました。

でも、1冊目を自力で売ろうとして苦労したからこそ、その大切がわかりました。だからこそ、いまインプレスコミュニケーションズさんが売ってくれる「ありがたみ」がわかります。

──本を制作する際に心がけていることは何でしょうか?
「うそがないこと」ですね。私は本づくりが好きだからやっているので、それを忘れて、売れるために媚びたり、何でもしたりするというのはダメですね。せっかく自分たちでリスクを背負ってやっているのにそれではつまらないし、それだったら本づくりをしなくても、もっとお金を稼ぐ方法はあります。やりたいことをやって失敗するほうが幸せです。

ですから、会社を大きくする気もありませんし、社員が食べられるだけ稼ぐというスタンスで本をつくって、読者のみなさんに受け入れてもらえたらハッピーなことだと思いますね。

──山下さんご自身は電子出版というものをどう見ていますか?
本でつくろうとするとコストや部数などの問題があるものを電子書籍で販売するということができますよね。つまり、選択肢があるということです。もちろん、電子出版に合うもの、合わないものがあります。合うテーマがあればぜひやりたいと思います。

──いま一押しの書籍をご紹介ください。
「momo」です。これは30代と40代の子育て世代のお父さんとお母さんが対象の本ですが、けして子育て本ではありません。私が出産して気づいたのですが、自分がほしいと思える本がありませんでした。ファミリー向け、ママ向けの本は多いのですが、子どものいる"大人のための本"がないことに気づき、自分でつくることにしました。ママ向けの本ではないので、お父さんにも読んでいただけて、読んでいて恥ずかしくない本になっています。大人のみ可で子どもはNGというお店や場所の情報と、子どものためのお店や場所の情報の、ちょうど"中間"の情報を紹介しています。大人も子どもも両方楽しんでほしいという気持ちでつくっています。

この本はたくさん売れなくてもいいので、そのかわりにずっと続けていける本にしたいと思っています。理解して支持していただける読者の方がいてくださればうれしいですね。また、momobookのレーベルとして、衣食住や家族に関するテーマの書籍も出していきたいです。

──いち編集者として、今後どのように出版にかかわっていきたいですか?
みなさんの箸休めになるような本をつくりたいです(笑)。自分というものを持っている人が、空いた時間で読んでいただける一冊をつくって、読んでいただいた方のお役に立てばよいと思っています。私たちは楽しみながら仕事をして、本をつくっていきたいですね。

また、今後は静岡のガイドブックもつくっていきます。静岡の売りは、日本でいちばん高い山、富士山があり、いちばん深い海、駿河湾があり、多様性のある豊かな土地です。

取材日:2013年6月12日
取材・文・撮影=インプレスコミュニケーションズ・デジタル事業本部

山下社長の一冊

金沢倶楽部の編集長をしていた林俊介さんの「泊まるといふこと」という本が昔ありまして、私がローカルなのにスゴイと思ったのは、これが初めてだと思います。ひとりでいろいろなホテルなどに泊まるエッセイ的ガイドで、ローカル発なのですが、日本全国だけでなく海外まで行っています。その自由さと、全国区レベルで見てもいい内容で、目指すならここだ、とまだ若い時に思った記憶があります。今は「ホテルに泊まるといふこと」として電子書籍で出ています。